将棋は先手に大きな主導権があり、ごくわずかに先手が有利なゲームであるといわれています。そのため、プロ棋士同士の対局の勝率を見ても、先手勝率が50%を少し超えるくらい、後手勝率が40%台などと、やや先手の勝率が高くなっています。
こういった現状の中、後手番は考えに考えをめぐらし、後手番でも主導権をとれるような戦法をいくつも考えてきました。今回は、居飛車と振り飛車別に、後手番でおすすめの戦法を順に紹介していきます。
居飛車の後手番戦法
横歩取り超急戦(4五角戦法と相横歩取り)
近年の一般的な横歩取り(▲3四飛に対して△3三角と上がる3三角型)は、青野流や勇気流など、先手番での攻撃的作戦の流行により、先手番がこれまで以上に主導権を握る戦いになっています。3三角型では先手番に主導権を取られがち、ということで、後手番でおすすめなのが横歩取り超急戦と呼ばれるタイプの横歩取りの作戦です。
上図は横歩取りの基本図で、先手が後手の横歩(3四の歩)を取ったところです。ここでは△3三角と上がるのが通常の指し方ですが、横歩取り超急戦というのは、ここで△8八角成としてしまう指し方です。横歩取り超急戦には人気の指し方が2種類あり、1種類目は角を4五に打つ4五角戦法、2種類目は後手も横歩(今度は7六の歩)を取ってしまうという相横歩取り戦法です。どちらも後手やや悪いというのが定説ではありますが、攻める展開になりやすいので主導権を握ることができますし、何よりしっかりと研究していれば「自分は知っているけど相手は知らない変化」がたくさん出てきます。横歩取りの将棋での変化球として、おすすめです。
一手損角換わり
一手損角換わりは、相居飛車が後手番で用いることのできる戦法で、通常の角換わりで、後手が一手手損をした形のことを言います。具体的には、下図のように後手から序盤早々角交換をしてしまいます。
当然、先手は▲8八同銀と、実質ゼロ手で手順に銀を上がることができるため、後手の手損となってしまいます。後手で、さらにもう一手損となってしまうと相当不利に見えますが、じつはこれにはしっかりとした狙いがあります。下図のようにお互いが腰掛け銀の形に組んだ時に、後手の8筋をよくよく見てみると、手損をしてあるおかげで8筋の歩が8四でとまっています。これにより、桂馬をいつでも8五に跳ねることができるというメリットがあります。例えば先手から▲7五歩△同歩▲7四歩(歩を持っていた場合)といった攻めが飛んできたとしても、△8五桂を桂馬を逃げつつ銀に当てて、無効となるのです。
一手損角換わりはかつて大流行したのですが、近年は対策も整備され、かつてほどの人気はなくなってきています。手損を咎める意味での早繰り銀による速攻が天敵と言われています。とはいえ、一手損角換わりが指せるようになれば、相居飛車では先手でも後手でも無理やり角換わりにすることができるようになるので、勉強量が減るという大きなメリットがあります。横歩取りや矢倉に苦手意識のある方は、勉強してみる価値はあると思います。
>>絶対に覚えておきたい!角換わりの定跡・戦法・囲いを徹底解説
急戦矢倉
先手の矢倉に対する速攻作戦として、急戦矢倉と括られる「先手の矢倉が完成する前に攻めつぶす作戦」が知られています。矢倉は基本的に先手が誘導するので、それに対して急戦矢倉を採用することができるのは後手の特権です。
急戦矢倉の中でも特に近年人気なのは、居角左美濃急戦や矢倉左美濃急戦などと呼ばれる、左美濃を用いた急戦作戦です。先手矢倉をほぼ壊滅に追い込むほど強力な作戦で、こちらの記事で解説しています。
>>矢倉(居角)左美濃急戦の序盤定跡と基本の指し方を徹底解説
振り飛車の後手番戦法
ゴキゲン中飛車
振り飛車での後手番戦法といえば、やはりこのゴキゲン中飛車。下図のように、▲7六歩△3四歩▲2六歩に対して早速△5四歩と突くのが、ゴキゲン中飛車の序盤の特徴です。
この4手目は後手番であることを最大限に活かした一手。2六の歩がついてあるおかげで、居飛車側が▲2二角成△同銀▲5三角と角を打ち込んできても、△4二角と角を打ちあわせて馬を消すことができます。上図以下は、▲2五歩△5二飛▲4八銀△5五歩▲6八玉△3三角(下図)のように進むのが一般的です。
現代振り飛車を好むいわゆる「現代振り飛車党」の棋士たちの多くは、先手番で石田流を、後手番でゴキゲン中飛車を採用しています。石田流は先手番専用の戦法なので、先手番では先手番専用の戦法を用い、後手番では後手番専用を用いる、といった感じできれいにその時々に応じた適切な戦法を使い分けています。ゴキゲン中飛車の定跡については、こちらの記事で紹介しています。
>>ゴキゲン中飛車の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説
まとめ
あまり実際の対局では意識しないかもしれませんが、先手番ではできることが後手番ではできない、そんなことが結構あります。将棋では、1手の差が意外と大きいのです。
しかし、今回紹介したような後手番用に作られた戦法は、こういった後手番のデメリットをうまく補えるように設計されています。後手番での勝率が伸び悩んでいるという人は、採用してみることをおすすめします。