矢倉は長らく居飛車の王道戦法として、タイトル戦含め多くの対局で指されてきましたが、近年は先手番での勝率も下がり、あまり指されなくなってきているような印象があります。
その原因として挙げられるのは、居角左美濃急戦をはじめとする急戦矢倉の発展でしょう。特に右四間飛車はアマチュア間に人気の急戦矢倉の一種で、特に攻撃力も高く愛好者も多いです。
矢倉で高勝率を挙げるためには、天敵といってもよい右四間飛車戦法の対策は必須。今回は、従来型の右四間飛車と左美濃型の右四間飛車の2種類について、それぞれに対する対策・受け方を見ていきたいと思います。
居角左美濃は、先手矢倉に対する後手の有力手段の一つ。玉を左美濃に収め、腰掛け銀の形から速攻を仕掛けるのが狙いです。がっちりとした矢倉を組むのに比べて手数がかからないほか、より横からの攻めに強いか前と成るので、大駒をぶった切っていくような強い戦いもできるのが特徴です。
居角左美濃を取り扱った棋書も何冊かでています。
相手の形に問わず、アマチュア同士の戦いでは攻めている方が勝ちやすいというのが基本です。特に攻撃力が抜群の右四間飛車についてはさらにその傾向が強いと言えるでしょう。
上図のように、完全に「受けの態勢」で戦ってしまうと、実際には互角の戦いでもペースは相手に持っていかれる形。序盤から工夫が必要な戦いとなります。
対策1:横歩取り
後手の囲いの左美濃は横からの攻めには強い形ですが、上からの攻めに対してそれほどの耐久力はありません。「横歩」と呼ばれる3四の歩は通常の矢倉の形なら銀のヒモがついていますが、左美濃では完全に浮いてしまっています。
1つの先手からの攻め筋として、この3四の歩を狙っていくという作戦があります(仕掛けの可否は置いておいて、後手からすると相当嫌な筋のはず)。
自陣の守りが完成する前に後手陣に殴りかかっていくのが特徴。ここで△2三歩には▲3四飛、歩を節約して自陣の穴を補強する△3一玉にも▲3四飛と相手がどう対応してこようと横歩を取ることができます。
ただし、△3一玉▲3四飛に△4四角が飛車の可動域を狭めた後手の常套手段。ここで▲2四飛には△3五角が飛車取りと角成を見た厳しい一着となります。
ということで、いきなり横歩を取るのは実はあまり良くなく、一度▲7九角と角成の隙を消してから▲3四飛とするのが効果的です。
完全に先手が優位に戦えるような将棋では決してありませんが、後手の狙いを外し先手ペースにしやすい態勢は整えられました。乱戦好きの方には特におすすめの対策でうs。
対策2:▲6六歩保留
居角左美濃急戦側からの仕掛け筋は、基本的に△6五歩から歩をぶつけていくというものです。この筋があるのは、先手が▲6六歩と突いているために6五の地点に争点が生じてしまっているから。つまり、先手が▲6六歩と突きさえしなければ、前述したような筋は生まれません。
この場合だと、よくある右四間飛車に構えて6筋から猛攻…のような攻め筋はなくなっています。6筋には争点が存在しないので、そこに勢力を集中させるのは合理的とはいえません。
ただし、この▲6六歩保留型に対しても、「(単騎の)△6五桂跳ね」という天敵が存在します。角換わり腰掛け銀でもしばしば見られる筋です。
下図のように、先程の図から少し突き捨てをして桂馬を跳ねる形は考えられます。
また少々特殊な例ではありますが、左美濃の形を完成させる前に仕掛けてしまうような手も指されています。
上図は実際に藤井聡太四段 対 小林健二九段の対局でも現れた形で、後手で桂跳ねを決行した藤井四段が勝利を収めています。
▲6六歩保留は6筋に争点を作らせないというメリットはありますが、裏を返せば流行りの桂馬ポン跳ねをする機会を後手に与えてしまっているということもできます。
仕掛け筋も多彩ですが、後手が攻めを繋げるのも決して簡単ではありません。受けが得意な方は採用すると良いと思います。
対策3:▲4六角型
対策1・2で紹介した作戦は、居角左美濃急戦対策といった面では効果的ですが、一般的な矢倉の戦いとはかなり離れてしまいます。
対策3では、一般的な矢倉の形のままの対策法を紹介します。それが下図のような▲4六角型で、愛好者も多いのではないでしょうか。
もちろん、この角は後手の左辺を牽制してのもの。もちろんこの瞬間に△6五歩と仕掛けてくれば▲7三角成が実現できますし、△5四銀にも▲6四角と歩を取ることが可能です。先手もうかつに仕掛けられない形といっていいでしょう。
後手としては△6二飛とあらかじめ6筋に備えたうえで△5四銀から攻めの態勢を作っていくのが自然。
以下△6二飛▲3六歩△5四銀▲3七桂で下図。
▲3七桂は、△4五銀から角を追う手を消している重要な一手。角さえ追われなければ、後手から仕掛けはあまり心配する必要がありません。
まとめ
矢倉使いに猛威を振るっている居角左美濃急戦ですが、相手の狙いを見極めて対策を立てれば、互角以上に戦うことは可能です。
ただし、受け一方の戦いになるのは絶対に避けなければいけないパターン。一度相手の攻めが繋がってしまえばもう勝てないと思った方がよいかもしれません。
居角左美濃急戦対策では、積極的に攻めの姿勢を見せていくことが必要です。