将棋を指していて、「なかなか思うように相手陣が攻められない」「そもそもどこから攻めていいか分からない」、そんな悩みを持った方は多いと思います。
今回はそんな初心者の方向けに、将棋の攻め方のコツを7つ紹介していきます。
攻めの目的
具体的な攻め方について学ぶ前に、まずは攻めの目的について考えてみましょう。将棋の目的は当たり前ですが、相手の玉を自分の玉が取られるのよりも早く取ってしまうことです。
将棋の指し手は「攻め」の指し手だけではなく、受けの手、陣形整備の手、手待ちの手など、様々ですが、中でも将棋で「攻める」といったときの目的は、以下の2つといってよいでしょう。
・成駒を作る
絶対に知っておきたい攻め方のコツ
コツ1:狙うべき個所を狙う
まず、相手陣を攻めていくにあたって、どこを狙っていくべきかを考えます。その際、基本的には相手の駒の弱点となる箇所を意識し、歩などの弱い駒でその駒を取る、またはその地点に成駒を作る、などを狙います。
角頭
最も分かりやすいのは角の頭、角頭です。角は飛車に次いで強力な大駒の一つですが、斜めにしか動けないため、角の頭は常に狙うべきポイントです。
角頭を狙う方法は様々です。歩・銀・桂・香などで狙うのが普通です。下図では、後手が先手の角を歩で攻めています。面白いもので、この状態で歩を打たれてしまうと、もう角は助かりません。角の頭がいかに弱いかが分かります。
この展開は相掛かりの戦法の序盤の失敗例として知られています。実際には角の頭を守るために金を上がるなりして受けておく必要があります。
桂頭
桂馬も角と同様、頭を弱点にしている駒の一つ。桂馬より価値が低いのは歩と香だけですので、通常は歩を持って狙いに行きます。
例えば下図。桂馬が単騎で跳ねてきた局面です。
ここでは歩を一つ4六に突くだけで(下図)、桂馬は逃げることができずに、桂馬を歩と交換することができ、駒得となります。
玉・飛車のコビン
玉と飛車のコビン(斜めのライン)も大きな弱点です。角や桂の弱点と少し違うのは、単純に進めない場所があるということではなく、相手の駒を取りたくても取れない、そんなケースが多いこと。
例えば下図では、▲3四歩が相手の玉のコビンを狙った一手。△同歩では王手となってしまうので、後手はこの歩を取りたくても△同歩とはできません。
ここから後手が何もしなければ(もっとも、何かしたくても何もできませんが)、▲3三歩成△同銀▲3四歩(下図)といった形で、さらに追い打ちを掛けられます。
上図の様になれば、先手の攻めは大成功。もちろんこの歩を銀で取ることも許されません。相手がある駒を取りたくても取れないことを利用しています。
コツ2:飛車先を突破する
将棋で一番強い駒は、もちろん飛車です。飛車がいつまでも自陣にいては有効活用できないので、飛車は最終的には敵陣に成り込んで侵入し、龍となって活躍するのが理想です。
飛車の成り込みを狙う
下図は、居飛車急戦対四間飛車の序盤の形です。
上図で、本来であれば▲2四歩△同歩▲同飛と飛車を走らせて、▲2一飛成などを狙いたいのですが、2四の地点が3三の角で守られているので、そうはなかなかいきません。
そこで、上図では▲4五歩と仕掛けていくのが定跡になっています。△同歩とすれば、▲3三角成△同桂▲2四歩△同歩▲同飛(下図)といった感じで、2筋の攻めが成功します。次は早速▲2一飛成が狙えます。
もちろん実際の情勢では▲4五歩に△同歩とは取ってくれません。4筋の攻防は4五歩早仕掛けとして定跡が整備されています。詳しい指し方は『4五歩早仕掛けの基本定跡と指し方』で解説しています。
数の攻め
先ほどのケースでは単にある地点を守っている駒を動かしたり、交換させたりすることで、飛車先の突破を狙いました。ただし、実際にはそのような軽い攻めだけではなく、複数の駒集中させて、数の力で敵陣を突破しようとする指し方も登場します。
例えば、下図は棒銀戦法と呼ばれる戦法の序盤です。
ここから、▲2四歩△同歩として、▲同飛ではなく、▲同銀(下図)とします。下図を見てみると、集中攻撃しようとしている2三の角頭に、飛車と銀の両方の駒が利いているのが分かります。
次は▲2三歩と打てば角を歩で取って大きな駒得なので、後手は△2三歩と打ってくるくらいですが、2三の地点にこちらは飛車と銀の両方が利いているので、▲同銀△同金▲同飛成(下図)と数の攻めで突破することができます。竜を作って、先手大成功。
棒銀戦法は、初心者に最もおすすめな戦法の1つです。詳しくは『棒銀戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』で解説しています。
コツ3:駒得する
駒得を露骨に狙っていくのも、立派な攻めの戦略です。
歩得する
最も分かりやすいのは、歩得です。例えば下図では、銀を4五に進出させ、3四の歩を掠め取ることを狙っています。
歩を取った手が3三の角取りでもあるので、歩を取りつつ、角を攻める、良い攻め方です。
歩1枚くらい…と思うかもしれませんが、歩があれば様々な攻めを組み立てることができます。先ほど紹介したように、歩1枚で角や桂の頭を狙うことだって可能。歩は将棋で一番弱い駒です。相手に取られても大した心配をしなくてもよいので、将棋で攻めるときにはまず歩を活用することで駒得を狙ったり、何か技をかけるための準備をすることができます。
両取りをかける
駒得をするためのもう一つの頻出テクニックは、両取りの手筋です。両取りとは、相手の複数の駒に取りをかけ、絶対にどちらか一つの駒は取れる、そんな状態。最も有名なのは、下図のような桂馬の両取りです。金がどちらに逃げようとも、どちらかの金を取ることができ、金桂交換の駒得となります。
コツ4:持ち駒を活用する
攻めを組み立てる際には、持ち駒も活用していく必要があります。持ち駒は盤上にある駒と比べて、どこにでも打つことができるので、さらに強力です。
まずは持ち駒を作る
持ち駒を作る方法をまずは紹介します。先ほど紹介したようなテクニックを用いて、角を攻めたり、桂馬を攻めたり、こういったことで持ち駒を作るのが基本ですが、実際の戦いではすぐに駒得ができないことも多いです。お互いに駒得・駒損が重要なことが分かっているので、駒損しないような指し回しをしてくるからです(ただし、歩得は比較的簡単です)。
ただし、持ち駒をつくる方法は何も駒得だけではありません。自分と相手の同じ価値の駒同士を交換することもできます。
例えば下図。▲7六歩△3四歩(下図)という、最も一般的な将棋の序盤です。
ここでさっそく何か持ち駒を作りたい場合は、▲2二角成△同銀(下図)のようにすることができます。
上図では、お互いが角を持った状態となります。持った角をうまく活用していく必要があります。
両狙いの手
先ほども触れたような両狙いの手は最も分かりやすい攻めです。例えば角交換した後の局面図(下図)から早速何か技を掛けたい場合…
ここで、▲4五角と打ってしまうのが筋違い角として知られている戦法です(下図)。
この手は3四の歩取りと▲6三角成の両狙いの手。大駒を成らせてしまってはたまらないので、△6二銀などとしてきますが、▲3四角と歩をとってしまいます(下図)。片方を受けたらもう片方が受からない、そういった仕組みです。
ただし、局面を総合的に見なければいけないのが将棋の難しいところ。歩を取ったのは確かに得ではありますが、序盤の早い段階で角を使ってしまい、逆に角を狙われやすくしてしまったのはマイナスかもしれません。駒を盤上に打つときにはプラスとマイナスをしっかりと考えてから指しましょう。
飛車交換する
最後に、飛車を交換してしまうのがプラスになる、そんなケースもあります。飛車は最強の駒なので、お互いが飛車を持ち駒にした場合、お互いの攻撃力が大幅にアップします。そうなった時は、飛車による攻めに強い形、例えば囲いがより固い方でったり、陣形に飛車の打ち込みがない側が有利になります。別の言葉でいえば、自分の陣形が相手の陣形よりも固かったり、飛車の打ち込みの隙が無い場合は、飛車交換をすることで有利になります(自分だけ持ち駒の飛車を有効活用できるため)。
例えばアヒル戦法という奇襲戦法は、「大駒の打ち込みに強い形を作り、大駒の交換を狙う」ことをコンセプトにしている戦法です。下図が、アヒル戦法のよくある形。7九と3九の金が強力で、飛車角の打ち込みの隙をなくしています。
局面を少し進めて下図。ここでは▲6六角が狙いの一手。飛車交換をすれば、後手陣には8二の地点など、飛車の打ち込みの隙が多く、桂香を回収しながら強く攻められます。逆に先手陣には打ち込みの隙が無いので、飛車交換は先手に一方的に有利になります。
知っておくと役に立つ攻め方のコツ
コツ5:攻めは飛車角銀桂の4枚
まず、攻めは飛車角銀桂の4枚で行うのが基本です。例えば右四間飛車戦法(下図)では、それらの駒を総動員して、4筋を攻撃しています。すべての駒が最大限に働いていて、無駄がありません。
右四間飛車戦法については、『右四間飛車戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』で詳しく定跡を解説しています。
コツ6:先に攻めた方が勝ちではない
将棋は、決して先に攻めた方が勝ちのゲームではありません。攻めの手を考えてみてもうまくいかなそうであれば、少し時間を待って相手陣に隙が出るのをまったり、相手の攻めをまずは受けてから持ち駒を蓄えたりと、できることはたくさんあります。成功する見込みもないのに無理に攻めるのは、一番やってはいけないこと。
コツ7:思い切った攻めをするには強い囲いも必要
これは攻め方と直接かかわってくる話ではありませんが、相手陣を攻める際には自陣の状況もしっかりと確認しておかなければなりません。
自玉の囲いが柔ければ、あまり思い切った攻めはできないでしょう。その一方で自分の囲いが固ければ、飛車角を大きく使ったり犠牲にしたりするような、思い切った攻めができるかもしれません。また、どんな囲いであっても、「角を渡して大丈夫か」「飛車を渡して大丈夫か」などのチェックも必要です。
将棋の囲いについて、初心者におすすめの囲いは『初心者におすすめの囲いを5つ紹介!簡単に組めて勝率UP!』で紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。それぞれの囲いのページから、その囲いを使ううえで注意すべきことなどもまとめています。
攻め方を学ぶには
定跡を学ぶ
もし将棋の攻め方が全く分からないのであれば、それは定跡を単に知らないからかもしれません。定跡とは、将棋の戦法の決まった指し方のことで、勉強すればその戦法の基本の攻め方を覚えられます。初心者向けのおすすめの定跡については『将棋初心者向けのおすすめ戦法4選(居飛車・振り飛車別)』で紹介しています。
手筋を学ぶ
将棋を指していると、定跡から外れた展開になることも多いです。そんな時も、攻め方の基本的な手筋(両取りなど)を知っていれば、迷うことなく指し手を組み立てることができるはず。攻めの手筋については『攻め方を覚えるための「攻め」の必修手筋20』でまとめています。
また、手筋を学ぶうえでは将棋の手筋本を買って解いていくのがやはり一番おすすめ。読んでおくべき手筋の本については『』でまとめています。
最後に
今回紹介した将棋の攻め方をまとめると、こんな感じ。まず、攻めの目的はこちらの2つです。
・成駒を作る
この2つを目的を達成するために知っておきたい攻め方のコツは、この6つです。
・狙うべき個所を狙う
・飛車先を突破する
・持ち駒を活用する
・攻めは飛車角銀桂の4枚
・先に攻めた方が勝ちではない
・思い切った攻めをするには強い囲いが必要
また、将棋の攻め方を学ぶために、最近はこのような攻め方を次の一手形式で学べる本も出ています。
通常の手筋本と異なり、攻め方だけにフォーカスしているので、書着の攻めを集中特訓で学びたい人におすすめです。