駒の動きや、禁じ手とかの将棋の基本的なルールは覚えた、という人が次に取り組むべきこと、それは戦法と囲いの勉強です。戦法とは、一言でいえば将棋の攻め方。将棋の攻め方さえ知っていれば、序盤や中盤でどう指せばいいのか分からないなんてことにはなりません。
この記事では特に将棋の「戦法」に絞り、どの戦法を勉強して使っていくのがおすすめか、どのような攻め方をするのか、などについて解説していきます。 ぜひ自分の得意戦法を一つ持ち、その戦法を極めていきましょう。戦法をマスターすることは、序中盤力の強化につながります。将棋の序盤・中盤・終盤の基本と上達法については『将棋初心者がおさえておきたい「序盤」「中盤」「終盤」の基本と強化法』で詳しく解説しています。
また、初心者向けの将棋勉強法については『将棋初心者が初心者脱出するための効率的将棋勉強法』で紹介しています。
はじめに:居飛車と振り飛車
将棋の戦法は大きく分けると居飛車と振り飛車に分かれます。居飛車は、「居」という字の表すように、飛車を初期配置に置いたままの戦い方(下図左)。それに対して振り飛車は「振」という字からもわかるように、飛車を2筋以外の別の筋に動かして(飛車を振って)戦う指し方です(下図右)。
将棋では、居飛車と振り飛車で大きく戦い方が違ってきます。しかし、居飛車の戦法同士、振り飛車の戦法同士は戦い方がかなり似通っているので、戦法を勉強する際にはまず「自分が居飛車の戦法を指したいのか、振り飛車の戦法を指したいのか」決めることをつよくおすすめします。
居飛車の戦法と振り飛車の戦法はどっちがおすすめ?
基本的にはどちらも有力で、あまり深く考えずに決めてもらって構いません。実際のところ、「居飛車VS振り飛車」は長年争われている議論で、ソフトの見解によれば若干居飛車の方が有利になりやすいものの、人間同士の対局ではほとんど影響しません。それぞれの指し回しの特徴などは、『初心者におすすめなのは居飛車?振り飛車?』で解説しているので、ぜひ併せてご覧ください(なお、私は将棋を始めたころから居飛車を指していて、今も居飛車中心です。個人的には居飛車がおすすめです)。
戦法と囲い
将棋の序盤の段階では、すぐに戦いを起こすようなことはせず、攻めの陣形(戦法)と守りの陣形(囲い)の整備に時間を費やします。今回紹介するのは攻めの陣形である戦法。戦法の種類は、主に攻めに関わってくる駒である飛車・角・銀の配置で決まってきます。
攻めの陣形の整備と並んで重要なのは、守りの陣形の整備、すなわち囲いです。囲いは玉将を相手の攻めから守るために陣形で、主に金駒(金や銀)を使って作っていきます。
戦法と囲いは基本的にはセットで、ある程度決まった組み合わせがあります。例えば今回紹介する戦法の一つである四間飛車戦法は、美濃囲いと呼ばれる囲いと一緒に使うのが一般的。
上図では、飛車を左から4筋目に移動して角や銀を上げる形を四間飛車戦法といい、その右側に玉・金・銀を寄せる形を美濃囲いと呼びます。戦場となる盤面左側から玉を遠ざけており、かつ金銀の並びが横からの攻めに強いため、美濃囲いは四間飛車戦法と相性の良い囲いです。
今回は、各おすすめ戦法とともに、組み合わせにおすすめな囲いも一つか二つ紹介していますが、さらに囲いについて学びたいという方は『初心者におすすめの囲いを5つ紹介!簡単に組めて勝率UP!』がおすすめです。
攻め方の指針
将棋の戦法は相手陣を攻めるために存在していますが、具体的には何を狙っていけばいいのでしょうか。どの戦法を使っていくのかに限らず、攻め方の指針としておすすめなのは、常に「駒得」と「成駒作り」を狙っていくことです。
例えば上図は棒銀戦法と呼ばれる戦法の成功図のひとつ。2八の飛車が2三に成り込んでおり、先手大成功。加えて持ち駒を見てみると、後手が銀を一枚しかもっていないのに対して、先手は金一枚と歩二枚を手にしています。金と銀ではやや金の方が価値が上ですし、歩を二枚得している分、先手の駒得です。
駒得をすればこちら側の攻撃力はさらに増える一方で、相手の攻撃力と守備力はともに激減します。成駒を作る(例えば飛車を竜にする)ことによっても、こちらの攻撃力は上昇します。中盤戦では玉を直接狙っていくことはできませんが、駒得をしたり、成駒を作っていくことで、徐々にリードを広げていくことができます。これこそが多くの戦法の狙いです。
なお、将棋で相手陣を攻めていくうえで、駒得と成駒作りを狙うために抑えておきたい攻め方のコツが6つ存在します。将棋の攻め方の基本とコツについては『将棋の攻め方の基本とコツを初心者向けに分かりやすく解説』で詳しく解説しています。
居飛車のおすすめ戦法
棒銀戦法
棒銀戦法は、飛車と銀のコンビネーションで攻める攻撃力抜群の戦法。数の攻めを基本として2筋突破を狙っていきます。棒銀の攻め方は至ってシンプル。2筋の歩を突いていき、飛車と銀を連携させます(棒銀は全ての戦法の基本なので詳しく解説します)。
初手から 2六歩 2五歩 3八銀 2六銀 2六銀 1五銀(下図)
上図から 2四歩 (同歩) 同銀 (下図)
歩と銀で連携して相手の角頭を狙っていくのが一つの狙い筋。次に相手が何もしてこなければ、2三歩と歩を打って、角を捕まえることができます(下図)。歩と角の交換となれば、もちろん先手大優勢。
なお、相手が角頭を守ろうと、4一の金を3二に上がってきた場合でも、同様の手順で敵陣を突破することができます。仮に3二金と上がった形で相手が△2三歩と打って銀を追い払ってきても(下図左)、▲同銀成ー△同金ー▲同飛成(下図右)とすれば、龍を作って先手大成功です。
棒銀のさらに詳しい攻め方や戦い方のコツについては、『棒銀戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』で解説しています。
棒銀戦法のバリエーション:矢倉囲い・舟囲いとの組み合わせ
実戦では、上図のように玉を5九に置いたまま戦うのはあまりにも危険。この棒銀の基本の攻め筋を主軸としつつ、相手にするのが居飛車か振り飛車かによって、陣形の整え方を調整します。
相手が居飛車である場合は、玉を矢倉囲いで囲って、棒銀を軸に攻めていくのがおすすめです(下図)。
矢倉囲いは相居飛車でよく用いられる囲いで、上からの攻めへの耐性が魅力的。矢倉に玉を入城さえしてしまえば、そう簡単に玉が狙われることもありません。さらに、6八の角が遠くまで睨んでおり、攻めにも利いています。この場合でも、2四の地点にのちのち銀と角と飛車と歩のすべての利きが通ることになり、攻めの基本の一つ「数の攻め」に沿った戦い方になっています。矢倉囲い×棒銀の組み合わせは攻めの面でも、守りの面でも強力で、おすすめの戦い方の一つ。矢倉囲いの組み方については『矢倉囲い(カニ囲い・金矢倉)の基本の組み方の手順と指しまわしのコツ』をご覧ください。
相手が振り飛車である場合は、玉を舟囲いで囲って、やはり棒銀を軸に攻めていきます(下図)。
ただし相手の角が3三にいる場合、銀を2六ー1五などと進めていくことはできません。この場合は3筋の歩を突いていくことによって、銀を5段目に進出させることを狙っていきます。
舟囲いは対振り飛車の最も基本的な囲いで、その手軽さが魅力です。舟囲いの組み方については、『舟囲いの組み方の手順と指しまわしのコツ』をご覧ください。
おすすめ書籍:井上慶太の居飛車は棒銀で戦え
棒銀を始めてみたいという方におすすめしているのは、井上慶太九段の「居飛車は棒銀で戦え」です。相居飛車の棒銀、対振り飛車の棒銀の基本的な指し方を分かりやすく解説しているので、最初の定跡書としては最適だと思います。
右四間飛車戦法
右四間飛車は、居飛車ながら飛車を4筋に振って戦います。飛車は振りますが、真ん中より右(2筋に近い)ということで通常は居飛車にカウントされます。右四間飛車のメリットは、飛車や角だけでなく、銀や桂馬など、たくさんの攻め駒を働かせられる点です。例えば下図。
飛車・銀・桂・角のすべてが4筋方面に集中しており、全ての駒がしっかりと働いています。駒を無駄なく活躍させることができる戦法です。こちらも4五の地点を攻めの基本の一つ「数の攻め」で攻略しようとしているのがわかるでしょう。これは矢倉崩しの右四間飛車ですが、こんな感じで4筋を集中攻撃するのが右四間飛車の狙いです。
右四間飛車のバリエーション:四間飛車破りの右四間飛車
振り飛車の代表格、四間飛車に対しても右四間飛車は有力な作戦です。少し形が違ってきますが、基本は同じ。徹底して4筋を狙っていきます。
上図からは▲2五桂△2二角▲4五歩と仕掛けていくのが定跡です。なお、対四間飛車での玉の囲いは棒銀の例と同様、舟囲いを使用しています。
対居飛車・対振り飛車の指し方は、どちらも『右四間飛車戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』でさらに詳しく解説しています。
おすすめ書籍:右四間で攻めつぶす本
右四間飛車の棋書はそこまで数が多くありません。中川先生の「右四間で攻めつぶす本」がタイトルこそ物騒ですが、内容はいたって真面目。一番の特徴は「次の一手形式」になっているところです。一手一手考えながら進めるので習得は早いと思います。
振り飛車のおすすめ戦法
四間飛車戦法
四間飛車は、振り飛車を象徴するような戦法です。最も伝統的なのは6六歩と角道を閉じて戦う四間飛車の形です(下図)。
居飛車の戦法がどちらかというと攻め重視であったのに対して、四間飛車は守り重視の戦法です。特に、居飛車の陣形と比較しての四間飛車の強みは何といっても玉の固さ。
四間飛車で主に用いられるのは美濃囲いという囲いで、手数のわりに横からの攻めに強く、非常に優秀。美濃囲いは振り飛車を指すのであれば絶対に覚えておきたい囲いです(詳しくは『美濃囲いの基本の組み方・発展の手順と指しまわしのコツ』で解説しています)。
例えば、お互いが飛車角を持ち合う(飛車や角を交換して持ち駒にする)ような展開になれば、玉の固さが活きてきます。
これらの特徴を踏まえて考えられるのは、居飛車の攻めに対して飛車交換を迫るような展開です(下図)。
上図から△同飛成▲同桂(下図左)となってお互いに飛車を持ち合う展開になれば、△8九飛ー▲8二飛(下図右)などと飛車をお互いに打ち合ったときに、玉が固い分先手が有利。
このように、自陣で眠っていた飛車を相手の飛車を交換したりすることで駒の効率をよくすることを「駒を捌く(さばく)」といい、振り飛車では必須のテクニックです。四間飛車に限らず振り飛車を指す際は、自陣の左側にある駒をいかに捌いていけるかが勝負の命運を分けるのです。
四間飛車の詳しい定跡については『四間飛車戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』を参考にしてください。
おすすめ書籍①:1手ずつ解説する四間飛車
四間飛車の棋書としては藤井九段による「四間飛車を指しこなす本」が有名ですが、その前段階として、本書のようにさらに平易な書籍を読んでみるのをおすすめします。
おすすめ書籍②:四間飛車を指しこなす本
もう一つ、やはり四間飛車を指していくうえで読んでおきたいのは、四間飛車の大御所である藤井九段による名著「四間飛車を指しこなす本」シリーズです。次の一手形式なのもポイント。全3巻を読破すれば、四間飛車の基本的な定跡を網羅できるはず。
中飛車戦法
中飛車は、その名の通り飛車を5筋(真ん中)に振り、中央突破を狙う戦法です。
中飛車にもいくつか種類があるのですが、上図は最もシンプルなもの。飛車と歩と銀のコンビネーションで中央突破を狙うのは棒銀と同じです。上図からは▲5四歩から数の攻めで5筋を攻めることもできますし、3四の歩を取ることもできます。
上図では玉はかなり中途半端な位置にいますが、最終的には四間飛車と同様、美濃囲いと呼ばれる囲いに囲っていくのが基本です。
中飛車の中でも特に人気のゴキゲン中飛車と呼ばれる戦法については、『ゴキゲン中飛車戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』で詳しく定跡を解説しています。
中飛車のバリエーション:端角中飛車
端角中飛車は、中飛車の中でも特に攻撃力の高い戦法。9七の角で5三の地点を狙い、総攻撃を仕掛けます。プロ間や有段者の間で指されることは少ないのですが、一度指すとその攻撃力がやみつきになる、そんな戦法です。
一例ですが、上図から▲5四歩△同歩▲同銀△5三歩▲同銀成△同銀▲同角成△同金▲同飛成(下図)と進めば、後手陣は壊滅。
5三への角の利きを活かして、角を犠牲に竜を作るのが狙いでした。角は相手に渡すことになるものの、こちらは相手の金銀を手に入れた上に飛車を成り込み、中飛車大成功です。
おすすめ棋書①:なんでも中飛車
「なんでも中飛車」は最新系含めた様々なバリエーションの中飛車の定跡を解説している棋書です。本格的な定跡に入る前の段階の棋書として適当。
おすすめ棋書②:ひと目の中飛車
ゴキゲン中飛車の定跡にさらにフォーカスを当てた次の一手形式の定跡書が、こちらの「ひと目の中飛車」です。「なんでも中飛車」に比べてより実践で実際に使われているような形が多く、本格的な中飛車の指し方を初心者向けに丁寧に解説しています。
その他のおすすめ関連棋書
将棋・序盤完全ガイド(全三種)
相居飛車編
振り飛車編
相振り飛車編
将棋・序盤完全ガイドは「相居飛車」「振り飛車」「相振り飛車」という大きな括りの中で広く浅く、たくさんの戦法を紹介しています。一つの戦法の勉強に入る前に、こうした棋書で将棋の戦法の基本的な知識を身に着けておくのもおすすめです。