矢倉囲いは、将棋の最も基本的な囲いの一つです。それと同時に、矢倉は、囲いの一部というよりも「矢倉戦法」という名前が存在する通り、完全に戦法とセットになっています。ですから、囲いの組み方は相手にも依存していますし、長い歴史のある戦法ですのでそれだけ流派があります。今回は、矢倉戦法の「攻め」の部分、というよりも、囲いの「守り」の部分にフォーカスして、矢倉囲いの組み方の基本の手順と、指しまわしのコツを紹介していきます。囲いの「攻め」(戦法としての矢倉)については、『覚えておきたい!矢倉戦法の基本定跡と指し方を徹底解説』で定跡をまとめています。こちらもおすすめです。
もっと他の囲いを知りたいという方は、『将棋の主要な囲い一覧(居飛車・振り飛車別)』をご覧ください。主要な将棋の囲いを戦型別に紹介しています。初心者におすすめの囲いについても、『初心者におすすめの囲いを5つ紹介!簡単に組めて勝率UP!』で解説しています。
矢倉囲いの種類
矢倉囲いには、金矢倉、銀矢倉、片矢倉など、複数のパターンが存在します。詳しくはこちらの記事で囲いの一覧を紹介しています。
ですが、そのいずれもが実戦でよく使われるか、といわれるとそういったことはありません。今回は特に実戦で使われることの多い、カニ囲いと金矢倉の組み方を解説していきます。
カニ囲い
カニ囲いは、最もシンプルな矢倉系統の囲いです。金矢倉はもちろん、その他の矢倉系の囲いを組む際は基本的にはカニ囲いからスタートします。
初手から 7六歩 6八銀 5六歩(下図)
上図から 7八金 6九玉 5八金(カニ囲い基本図)
6九の玉の上に金銀を3枚並べることによって、カニ囲いが完成します。上からの攻めには十分強いですが、横からの攻めには心もとない囲い。しかし、短い手数で完成するのが強み。早い戦いを目指す場合には、カニ囲いのまま戦うこともしばしばあります。
金矢倉
金矢倉は、矢倉囲いの最も基本的なパターン。下図のような美しい金銀の連携が特徴です。
金矢倉の組み方の手順
金矢倉は、基本的にはカニ囲いを完成させるところからはじまります。下図がカニ囲いの基本図(再掲)。
カニ囲い基本図から 7七銀 6六歩 6七金(下図)
カニ囲いのままではさすがに心もとないということで、金矢倉を完成させる方向に進みます。上図では、銀1枚と金2枚の矢倉の玉を除いた基本の形が完成しています。ここからは、玉を8八の位置に入場させるために、角を動かしていきます。
上図から 7九角~6八角(下図)
玉は最終的に8八の地点に移動していく必要があります。角を7九~6八と動かすことによって、玉の通り道を確保します。
上図から 7九玉~8八玉(矢倉基本図)
玉を7九8八と移動させてやれば、金矢倉の完成です。
矢倉囲いの発展形
かぶと矢倉・へこみ矢倉
金矢倉と同程度、もしくはそれ以上によくみられるのが、かぶと矢倉とへこみ矢倉です。金矢倉は金銀の連携が美しく上からの攻めには圧倒的な強さを発揮したものの、金が比較的上の位置にあることからもわかるように、角の打ち込みに弱い形になっています。なので、角換わりの展開になった際には、金矢倉ではなく、かぶと矢倉やへこみ矢倉といった、角の打ち込みに強い矢倉囲いを使うのがおすすめ。角換わりの基本定跡や指し方についてはこちらの記事で紹介しているので、合わせてご覧ください。
まず、かぶと矢倉とは下図のような形。玉を6八の位置で保留しています。玉を戦場から少し話しておく意味合いがあります。
それに対してへこみ矢倉は玉を8八に移動させつつ、金は下から2段目に置いておく形のことを指します(下図)。
金が6七にいる形に比べて、角の打ち込みのすきが少ないのがわかると思います。また、こちらも戦場から玉を離しておく意味で、かぶと矢倉からへこみ矢倉への発展の手順途中で止めておくような指し方も一般的です。
若干不安定に思われるかもしれませんが、このまま中盤戦に突入することもよくあります。
かぶと矢倉の組み方の手順
下図左が角換わりの基本形です。ここから、先手の指し手に注目して、▲6八玉~▲5八玉とすれば、かぶと矢倉は完成です(下図右)。
へこみ矢倉の組み方の手順
かぶと矢倉からさらに、7九玉ー8八玉ー6八金とすれば、へこみ矢倉が完成(下図左)。なお、玉を8八まで入城させずに、7九の段階で止めておくのも有効な指し方です(下図右)。戦場から玉を離しておく意味合いがあり、若干不安定におもわれるかもしれませんが、このまま中盤戦に突入することもよくあります。
右辺が薄くなるのを嫌って、金を寄せずに5八に残しておくパターンもありますが、この場合は6九への銀の打ち込みに注意する必要があります。このように、かぶと矢倉やへこみ矢倉は手順がかなり複雑な金矢倉と比較してかなり簡単に組むことができます。
早囲い・片矢倉
最後に、早囲いと片矢倉、と言われる囲いを紹介します。早囲いは下図のような囲いで、7八にある玉が特徴的。
もしこのまま▲8八玉~▲7八金と囲いを完成させてしまえば、本家の金矢倉よりも早く囲いを完成させられます。
これは、早囲いにおいては先に玉を8八にいどうさせることで、角を二手かけて6八に動かす手間が省けているから。「早く矢倉が組める」から「早囲い」なのです。
急戦チックに戦いたいのであれば、金矢倉まで発展させることなく早囲いのまま仕掛けることも可能ですし、もう一つのバリエーションとして片矢倉(下図)に組むこともできます。
片矢倉は八段目の玉と金が1筋ずつ右にずれた形。8筋への守りは薄くなるものの、角の打ち込みはその分少なく、手数も少なくて済みます。角を6八に置くことはできなくなるので、4六に構え、敵陣の飛車をにらむという使い方がおすすめです。
早囲いの組み方の手順(一例)
初手から 7六歩 6八銀 7七銀(下図)
カニ囲いはスキップして、7七銀の形を早めに作るのが早囲いの特徴です。
上図から 6八玉 7八玉 5六歩 6六歩 5八金右 6七金 7九角(早囲い基本図)
片矢倉の組み方の手順(早囲いから)
早囲い基本図から 4六角 6八金(下図)
金矢倉の組み方の手順(早囲いから)
早囲い基本図から 8八玉 7八金(下図)
矢倉囲いの長所
上からの攻めへの強さ
矢倉の一番の長所は、上からの攻めへの強さです。下図では、6筋~8筋にかけて複数の金駒が並んでおり、半端な攻めは通じません。
攻めにも活用できる
矢倉囲いのもう一つの長所は、指し方によっては、囲いが玉を守るためのものだけではなく、攻めの一部としても活用できるというところにあります。例えばさきほどの図では、6八にいる角が8六の地点をまもりつつ、敵の2四の地点に睨みを聞かせています。また、4六に角を移動させれば相手の飛車に標準を合わせることも可能。受け一方の囲いではありません。
矢倉囲いの短所
手数がかかる
矢倉囲いの大きな短所は、どうしても手数がかかってしまうことです。角換わり系の矢倉の場合は気になるほどの手数はかかりませんが、金矢倉をしっかり組もうとするとどうしてもかなりの手数がかかります。この部分を逆手にとって、右四間飛車などの速攻で攻略されるのが一番怖い筋でしょう。
横からの攻めに弱い
矢倉は縦からの攻めに強い反面、横からの攻めに対しての耐久力はあまりありません。特に問題になるのが、7八の金。7八の金には玉以外の駒からのヒモがついておらず、8段目に飛車がいる状態で6九銀(下図)などと銀をひっかけられると一気に寄りやすい形になってしまいます。
端攻めに弱い
3つ目の矢倉の短所は、端攻めに弱いという点。どうしても8八に玉がいるため、端攻めの威力が増してしまいます。雀刺しという、矢倉対策専用の端攻め戦法が作られたくらいです。
矢倉囲いを使いこなす上でのコツ
手数を意識する
囲いを完成させるのに超手数かかる分、手数は無駄にしたくありません。早囲いを採用するのも一つの手ですし、下図のような局面は一手得するチャンス。
ここでは▲3五歩◬同歩▲同角◬3四歩▲6八角(下図)としておけば、手順に角を6八に移動させ、玉の通り道をつくることができました。
玉の位置には柔軟に
玉がどうしても戦場から近くなってしまう関係上、玉の位置には柔軟になっておきたいところです。
例えば角換わり戦では、先ほども紹介したように戦場に近づきすぎるのを嫌って、玉を6八や7九にとどめておくのも一般的です。
最後に
矢倉囲いは上からの攻めに非常に強い囲いです。ですので、対振り飛車はあまり得意とはしませんが、相居飛車での縦からの攻めに対しては抜群の耐久性を誇ります。
今回紹介したように、矢倉をマスターしてしまえば、矢倉戦法はもちろんのこと、角換わりなど、相居飛車の幅広い戦法に応用がききます。手順は複雑そうに見えますが、実際には細かいルールは無視してしまっても構いません。
おすすめ書籍
囲いを覚えて、さらにそれを指しこなしていくうえでは、組み方だけでなく、どのようにその囲いを実戦で使っていくのかが重要です。矢倉囲いともなれば、矢倉の「囲い」に特化した棋書がいくつか出ています。
先ほども紹介したように、矢倉には弱点も多いです。だからこそ、矢倉の組み方だけでなく、うまい戦い方(どのように弱点をカバーできるのか)も身に着ければベストでしょう。