金が守りの駒という側面が強いのに対して、銀はどちらかというと柔軟な動きができる駒として重宝されます。横に動けないのが弱点ではありますが、左右の斜めに動けることは金にはない特徴です。ですが、少し不安定な面があるのも事実。銀を活躍させられるかは使い手の指しまわしにかかっています。
「攻めは飛車角銀桂」といわれるように攻撃には銀の力が不可欠で、棒銀・早繰り銀といった直接的に銀を進出していく戦法までありますし、そこまでいかなくても、多くの戦法では銀が攻撃で活躍しています。その一方で「玉の守りは金銀三枚」という格言もあり、攻めだけでなく守りにも銀が必要であるということでしょう。
銀の手筋を寄せ集めているので、レベルには当然バラつきがうまれています。初心者の方で手っ取り早く基本的な手筋を学びたい方はこちらの記事がおすすめです。
手筋に関係した棋書に関してはあまり紹介していないので、どの本を買えばいいか悩んでいる方は先にこの記事を読んでおきましょう。
序盤編
1.棒銀
棒銀は居飛車の戦法名にもなっていることでよく知られていますが、実は将棋の攻め方の基本的な考え方を表したもので、他の戦法にも応用が利きます。ひとつの手筋と見なしても良いくらいかもしれません。
下図のように後手が無防備の場合はもちろん▲2四歩△同歩▲同銀で先手成功。先手の攻め駒の数に対して後手の受け駒の数(金一枚のみ)が足りていないので、あっさりと2筋を破られてしまいます。この「数の攻め」こそが棒銀の本質です。
後手が改良して、下図のように3三に銀をかまえたパターンもみてみましょう。
こちらも簡単です。▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△2三歩▲2八飛
(下図)で先手満足。突破とはなりませんでしたが、自分の攻めの銀を相手の守りの銀と交換できて満足です。
「棒銀戦法」は居飛車の戦法ですが、この棒銀という考え方はどの戦法を指すにあたっても有用です。
2.端攻めA
棒銀の手筋の延長のような形ですが、積極的な端攻めができるのも銀の強みです。
上図は先手が端攻めを目論んでいるところ。▲1五歩△同歩▲同銀(!!)といってしまうのが良いやり方(下図)。
以下△同香▲同香となれば、銀香交換の駒損ではありますが香車を順調に走れて先手十分戦えます。
3.端攻めB
銀を活用した覚えておきたい端攻めの攻め筋はもう一つあります。下図から端を絡めて攻めを繋げる手順を考えて見てください。
ひとつ考えられる手段は、▲1五歩△同歩▲1二歩△同香▲1三歩△同香▲1二銀(下図)です。
銀の斜めの利きを活かした桂馬取りと▲2三銀成の両狙いで、非常に受けづらいです。歩を比較的多く消費してしまうので、注意も必要です(▲1二歩△同香▲1三歩に代えて▲1三歩とはじめから打つことで節約は可能)。
中盤編
1.割打ちの銀
割打ちの銀は最も有名な銀の手筋ではないでしょうか。飛車や金といった斜め後ろに動けない駒の弱点をついて両取りを掛ける指し方です。
結果的に駒の損得はない場合が多いですが、相手の自陣の駒を一枚剥がすということそのものが成果です。相手に駒を渡してしまうというデメリットもあるので、タイミングは見極める必要があります。
また、飛車と金の間が隔てられている場合(下図)は割打ちの銀がさらに強力になります。
2.桂頭の銀
こちらも有名な手筋です。桂馬の正面に銀を置くことで、桂馬の動きを完全に封じることができます。
見ての通り、桂馬にヒモがついてない場合は次に桂馬を取ることもできます。特に中終盤で桂馬を自陣に向けて打たれたら、とりあえず銀を置いているという方も多いのではないでしょうか。
桂頭の銀は、次に桂馬を取る手を見せているという点でも強力です。その反面、桂馬の前に銀がいるせいで歩で桂馬を取りに行くことはできなくなるので注意が必要です。
3.たすきの銀(名称不明・角でもOK)
飛車と金の特殊な位置関係に対して両取りを掛ける手筋です。割打ちの銀と違って基本的には駒得が見込まれるので、この銀を打てたら形勢が良くなる場合が多いと思います。
もちろんこの形は相手も悪形であることは認識しているので、自然な流れでこの形ができることはあまり多くありません。歩などを使ってうまくこの形に誘導していくことを考える必要があります。
4.玉頭銀
玉頭銀は主にノーマル振り飛車の手筋でしょうか。居飛車の3四の歩を目がけて左銀を6七~5六~4五と進出させていくのが特徴です。
3四の歩を取ったからと言ってすぐに何かがあるわけではありませんが、将来的な玉頭攻めはしやすくなります(もちろん歩得もアドバンテージです)。
ただし、角頭の守りがいなくなったり、銀が少し不安定になったりとデメリットもあります。
5.攻めをつなげる捨て駒
序盤編で紹介した棒銀と少し関係のある手筋です。いきなりですが、棒銀が成功して下図のような局面になったとします。
成銀をつくることができ、作戦はもちろん成功しています。ここでは銀を9二に捨て、△同香▲9一飛成と銀を犠牲に飛車を成り込むのがいいでしょう。桂銀交換ですが、飛車を成り込むことができたのが大きく先手有利は間違いありません。
終盤編
1.矢倉崩しの銀打ち
金の弱点である斜め後ろのラインに、銀の特徴である斜めの利きを活かして囲いを剥がすことがきます。特に矢倉崩しとして知られている手筋でしょう。
相手が何もしてこなければ金を取って囲いを一枚薄くすることができます。△5三金には▲4一銀成で今度は角が捕獲できています。
2.美濃崩しの銀捨て(金でもOK)
この手筋も、矢倉崩しと同じく囲いの弱点を上手く突いています。片美濃囲いに対して▲6二銀と打ち込めば、囲いは一瞬で崩れます。
△同金に▲7一角△9二玉▲6二角成とすればもう受けがありません。
片美濃の場合はかなり簡単にいきましたが、金が一枚くっついた本美濃の場合はそう簡単にはいきません。邪魔な5二の金をどかしさえすればこの筋に持っていけるので、そこから始めることになります。
3.腹銀
腹銀は、おそらく最も有名な必至の手筋です。銀は横には進めないので、玉の腹(隣り)に銀を打っても王手ではありませんが、斜めの利きによってうまく逃げ道を塞ぐことができます。
この局面の次の一手を考えて見ましょう。王手を続けるなら▲7二金で良さそうにみえますが、9筋方面から上部脱出を狙われてしまいます。「王手は追う手」とはまさにこのことです。
正着は腹銀のコンセプト通りの「▲7二銀」。王手ではありませんが、▲8三銀成と▲7一馬を見せて受けがありません。