棒銀戦法は、数ある将棋の戦法の中でも攻撃力があり、一歩間違えると自陣が壊滅してしまうような戦法です。有名どころでいうと引退された加藤一二三九段が得意とされていましたね。
しかしその攻撃力の反面、飛車+単騎の銀のみで攻めていくためにカウンターに弱い一面があったりします。最初のうちはやられてしまうことの多い棒銀戦法ですが、きちんとした対策や受け方を知っていれば全く怖くありません。
今回は、居飛車目線での有力な棒銀対策を、具体的には原始棒銀、相掛かり棒銀、角換わり棒銀、矢倉棒銀の4つに対する有力な対策を紹介していきます。どれもしっかりと受け方を知っていれば怖い戦法ではないので、ぜひ棒銀を迎え撃ちましょう!
棒銀の狙いとは
棒銀の対策をする上で、まず最初に抑えなければいけないのが棒銀の「狙い」です。己を知るよりも敵を知ることの方が先決。詳しい戦い方は『【将棋初心者におすすめ】棒銀戦法の基本定跡と覚えておきたい攻め方を徹底解説』で紹介しているので、先に見ておいても良いかもしれません。
ここでは簡単に、相居飛車での棒銀の3つの狙いをおさらいします。それは、2筋突破・銀交換・端攻めです。
2筋突破
2筋突破は、棒銀の理想の成功図です。2筋突破と一言にいってしまいましたが、具体的に言うと竜を作ったり、角を取ったりなど。
上図では▲2四歩から攻めていけば2筋突破は確実です。以下▲2四歩△同歩▲同銀(下図)で、2三の地点に後手の駒の利きが足りていません。
△2三歩に対しても、▲2三銀不成△同金▲同飛成(下図)とすれば、強力な竜を作って先手有利です。
このように飛車と銀の数の攻めだけで2筋突破を簡単にできるケースはそう多くありませんが、初心者同士の対局ではよく目にします。
銀交換
2筋突破に次いで、棒銀の大きな狙いは「銀交換」です。こちらが攻めに使っている銀と、相手の受けの銀を交換することを狙います。
上のように、後手の銀が3三にいるときには銀交換を狙うことができます。一例ですが、上図から▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛(下図)など。
基本的に、攻めの銀と守りの銀の交換は攻めている方が得をします。失った銀の守りを取り戻すには持ち駒を投入しなくてはならないためです。上図からは△2三歩と打っておいてすぐに後手陣が崩れることはありませんが、先手からは交換した銀を活かして端攻めをしてくる手順が残っています(後述)。
とはいえ、銀交換は2筋突破に比べればダメージは少ないです。攻めの銀と守りの銀の交換は攻めている側が多少有利とはいえ、大きな形勢の差はつきません。まだまだこれからの戦いと言えるでしょう。棒銀側がポイントを稼いだ、といった印象です。
端攻め
端攻めも、棒銀の狙い筋の一つです。銀交換後に攻めをつなげるために端に目をつけて攻めていくパターンと、最初から2六の銀を活かして端を攻めていくパターンの2通りがあります。
上図は角換わり棒銀(角交換した状態での棒銀)でよくある局面。ここから銀を5段目に進出させていきたいのですが、3筋の歩も1筋の歩も突かれており、先手の銀は行き場がありません。ここは▲1五歩△同歩▲同銀!とするのが有名な棒銀の手筋。
△同香▲同香で銀香交換のようですが、その駒損の代償として端攻めの要の駒である香車を前に進ませることができました。
これは角換わり棒銀における例ですが、相手の矢倉に対しての攻め筋としても似たような筋が出てきます。また、下図のように銀交換後に攻めをつなげるために端攻めを仕掛けてくるケースもあります。
上図は2筋突破とはいかなかったものの銀を捌いて先手がひとまず成功した後の形です。ここから先手は端に目を付けて攻めていきます。
以下、▲1五歩△同歩▲1三歩(下図)
ここで同香には▲1二銀と打って▲2三銀成と桂取りが受かりませんし、同角や同桂には香車を走ることができます。こうした端攻めも棒銀の狙いの一つです。
知っておきたい棒銀の対策定跡
棒銀の狙いを振り返ってみてわかったように、棒銀を対策するためには、棒銀の以下の3つの狙いをしっかりと封じる必要があります。
・銀交換
・端攻め
では、これらの狙いを封じるためには、どのように棒銀を受ければよいのでしょうか。棒銀と言っても、一種類の戦法ではなく、様々なバリエーションがあります。今回は、特に頻出の原始棒銀、相掛かり棒銀、角換わり棒銀、矢倉棒銀の4つの指し方の対策定跡を一つ一つ紹介していきます。
原始棒銀の対策定跡
将棋を指す人ならかなりの人が最初に歩む道、原始棒銀です。原始棒銀とは、下図の通り、自陣の整備は最小限に抑え、一気に飛車と銀の組み合わせで2筋に攻めかかってくる指し方のこと。ここでやってはいけないのが、下図の後手のようなやり方で2筋を守ること。
先程と同じ局面図ですが、お分かりの通りこれだと2三の地点に利いているのが金だけとなります。それに対して先手は銀+飛車(+歩)で攻めてくるので対抗できるわけがありません。原始棒銀に限った話ではありませんが、やはり数の攻めを意識した受けが必要になります。
原始棒銀を迎え撃つための序盤の指し方
分かりやすさのために、後手が原始棒銀で攻めてくるパターンを見てみます。先ほどのように金を角の隣に置いて角頭を守るのではなく、銀を7七に上げておくのが大切なステップです。
初手から ▲7六歩△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七銀(下図)
上図のように、7七に銀をあげるのは相居飛車でよく見られる形です。この形のポイントは、まず8六の地点に利きをきかせているという点。後手からの△8六歩を防いでいます。
上図以下 △7二銀▲7八金△8三銀▲7九角△8四銀▲6八角(下図)
後手はやはり棒銀の要領で攻めてきますが、ここで7七銀・7八金・6八角の形を完成させるのが最強の棒銀対策です。8六の地点には銀だけでなく角が利いており、相手が△8六歩と攻め込んできても▲同歩△同銀▲同銀で後手は飛車を走れません。角がしっかりと利いています。今回の手順は一例ですが、先手番でも後手番でも応用が利く受けの布陣です。この形をつくれば一直線に攻めてくる棒銀は確実に受け止められます。
角換わり棒銀の対策定跡
角換わりは、お互いに角を交換した状態での戦型です。角を双方が手にしているため、お互いの攻撃力が格段に上がっており駒組には細心の注意が必要です。お互いが角を持っている状態でも、もちろん棒銀による攻めはありえます。
初手から ▲7六歩△8四歩▲2六歩△3二金▲7八金△8五歩▲7七角△3四歩▲8八銀△7七角成▲同銀(下図)
上図は角換わりの基本図。ここから様々な戦法に分かれていきますが、そのなかでも棒銀は特に初心者に人気の戦法の一つ。ここから銀を2筋~1筋に繰り出していきます。
そんな角換わり棒銀の受け方は、ほぼ定跡化された手順となっています。角換わり棒銀に対しては桂跳ね急戦で対抗する手段なども出てきていますが、ここでは従来からある角換わり早繰り銀での棒銀対策を紹介します。
角換わり棒銀対策の早繰り銀+5四角
先手の角換わり棒銀に対する後手の対策は、ずばり早繰り銀とよばれる指し方です。早繰り銀とは、7四(先手なら3六)の歩を突いて、銀を7三~6四と活用していく角換わりの戦法の一つです。
角換わりの基本図から △2二銀▲2五歩△3三角▲3八銀△7二銀▲2七銀(下図)
先手が棒銀を明示した局面(今回は先手の棒銀に対する後手番での対策を見ていきます)。▲2七銀と指したのを見て、先手の棒銀が確定したので、後手は早繰り銀の陣形を作っていきます。
上図から △7四歩▲2六銀△7三銀▲1五銀△5四角(下図)
▲1五角に対して、△5四角と盤上に角を打つのが、棒銀対策の要です。これに対して先手が▲2四歩と仕掛けると、以下△同歩▲同銀△2七歩で後手成功。飛車が逃げれば銀がタダで取れますし、▲3三銀成には当然飛車をとれます。
先手ももちろんこうなってはいけないので、定跡では△5四角に対して▲3八角△4四歩と進みます。
△5四角には▲3八角が定跡化された一手で、△2七歩に対して今度は角で取れるようになっています。これに対して後手の△4四歩が5四の角を活かす好手。△4四歩の意味は、角の利きを2一まで届かせている点。この利きが重要な意味を持ってきます。
上図から ▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△3三金(下図)
先手は▲2四歩から銀交換を狙ってきましたが、飛車走りに対する△3三金が定跡の受け。飛車と角がうまく利いていて、先手は飛車を成るスペースがありません。これには先手も仕方なく飛車を引くことになります。
2八に引くのは△2七歩で後手有利(同角は△2二飛)、ということで2五に引くことになりますが、▲2五飛△2四歩▲2六飛△2二飛で後手指しやすいというのが定説です。
少し複雑な定跡ではありましたが、こうなってみると後手が調子が良いのがわかります。先手の角は非常に使いづらい場所にいるのに対して、後手の5四の角は絶好の場所に位置しており、2七の地点に常に睨みを聞かせています。△2二飛と、飛車を2筋に回るのは思いつきづらい指し方ではありますが、こうすることで棒銀の攻めを華麗にかわすことに成功しました。
今回紹介した角換わり早繰り銀による棒銀対策は、実際には非常に奥の深い定跡となっています。詳しくは、『【角換わり】角換わり早繰り銀の基本定跡と指し方』でも詳しく解説しています。
△2二銀による棒銀対策
先ほどは早繰り銀と△5四角による王道の受け方を紹介しましたが、△2二銀型の受け方も有力です。先手が銀を5段目に挙げてきたタイミングで、角を打つ代わりに3三の銀を2二の位置に引いてしまう指し方です。
壁銀となるのが不満点ではありますが、銀を引いて争点を作らないようにしています。3三の地点に銀がいないため、▲2四歩△同歩▲同銀に△2三歩と追い返せば何もありません。先手の狙いの一つである銀交換は成立せず、先手不利となるわけではありませんが、ひとまず棒銀の狙いは失敗となります。
矢倉棒銀の対策定跡
矢倉棒銀はかなり厄介な戦法。棒銀戦法+矢倉囲いの組み合わせで攻めてきます。矢倉は居飛車で定番の陣形で、手数はかかるものの玉の固さが売りです。詳しくは『【将棋】覚えておきたい!矢倉戦法の基本定跡と指し方を徹底解説』で紹介しています。
玉は堅陣でなかなか崩れない上に、棒銀の攻めに角の力が加わっていて、受けきるのはそう簡単ではありません。例えば下図。先手は先ほど紹介した「7七の銀、7八の金、6八の角」の3枚で8六の地点を守っていますが、後手からも飛車・銀・角の利きが通っています。守りの駒と同じ枚数の攻め駒を用意されてしまっては、攻めを受け止めきれません。
上図からよくあるのは、△9五歩▲同歩△同銀からの端攻めです。4二の角も端によく利いていて、非常に厄介な攻めです。
菊水矢倉による矢倉棒銀対策
原始棒銀は攻めを受け止めてさえしまえば対策が用意でしたが、矢倉棒銀はそういうわけにはいきません。玉も固く、攻め筋も多いため、完璧な対策法は存在しません。矢倉棒銀に対しては矢倉を組んで真っ向から対抗していくのもありですが、争点をつくらずに棒銀をいなす指し方もあります。今回はそちらの指し方を紹介していきます。
上図は、相手が矢倉と棒銀の組み合わせで攻めてきた局面。後手からは飛車・銀・角の3枚の利きが強力で、何もしなければ△8六歩から後手成功ですし、▲8八玉に対しても同じく後手成功となります。ここでのおすすめの一手は▲8八銀です(下図)。
▲8八銀は、角換わり棒銀の受け方とかなり似たコンセプト。▲8八銀に対して△8六歩なら、▲同歩△同銀の時に▲8七歩と打って問題なし。銀を引くことによって争点を与えず、銀交換を避けています。
△8六歩▲同歩△同角にも▲7七桂で局面が落ち着きます。
先手はこれから菊水矢倉という矢倉の派生形に組むことができます。玉が深く棒銀にも強い囲いです。
この形では、やはり8七の地点を金と銀の2枚で守っており、これ以上相手は8筋から攻めをつなげていくことができません。一つの可能性として、こういった指し方も覚えておくとよいと思います。
参考:振り飛車を持ったときの棒銀対策
棒銀は当然振り飛車相手にも使うことができ、振り飛車党の方も棒銀対策はしっかりと覚えておく必要があります。振り飛車を持った時の棒銀対策は、相居飛車での棒銀対策とは少し異なるので、『【棒銀対策】四間飛車での原始棒銀対策決定版!棒銀を受けるおすすめの指し方』で個別に紹介をしています。
最後に
棒銀は、決して対策不可能な戦法ではありません。棒銀戦法は数の攻めを活かしているという意味で、将棋の基本にのっとった戦法ではありますが、有段者同士の戦いやプロ棋士同士の戦いで見かけることはあまり多くなく、一般的には「攻めが単調」「カウンターが厳しい」など、勝ちづらい戦法とは考えられていません。
今回紹介したように、早繰り銀+角打ちや、矢倉の形、菊水矢倉の形などで、棒銀の狙いそのものは比較的簡単にかわすことができます。一度棒銀の攻めさえかわしてしまえば、後はゆっくりと反対側から攻めていけばよいはずです。