はじめに
マイナー戦法とは
マイナー戦法が、文字通り「マイナーな戦法」。プロ間はおろか、アマチュア間でもあまり使われることのないB級戦法たちのことです。
メジャーでないからと言って有力でないわけではありません。プロ間の研究においては、「戦いずらい」「囲いが薄い」などの理由で指されないことが多い戦法でも、アマチュア間では極めた側の勝ちです。
マイナー戦法=奇襲戦法ではない
マイナー戦法は、奇襲戦法と一緒にされがちですがこれらの間には大きな違いがあります。奇襲戦法は、基本的に嵌め手一発狙いの戦法。相手の間違えを誘い、一気に優勢に持ち込むという戦い方です。
それに対してマイナー戦法は決して嵌め手狙いだけの戦法ではありません。相手が正確に指してきたとしても互角に戦えますし、実戦でも使える戦法です。
マイナー戦法を指すメリット
自分の土俵に持ち込める
マイナー戦法をしっかりと研究して指しこなすようになれば、それはもう自分だけの定跡となります。
何しろマイナーなので相手は対応を知らないことが多いですし、なにより「相手は知らない指し手を自分は知っている」、ただそれだけで序中盤の戦いは有利に進められるようになるでしょう。
マイナー戦法を指すデメリット
棋書・棋譜が少ない
いわゆるマイナー戦法は、プロ間ではあまり指されていないので棋書や棋譜がどうしても少なくなってきます。
中には棋書が出ていないような戦法もあり、そういった場合はソフトなどを使って自分で研究していく必要があります。
また、棋譜が少ないのもつらいところです。
おすすめマイナー戦法①:阪田流向かい飛車
阪田流向かい飛車は向かい飛車の一種の戦法で、銀の代わりに金を前に使っていくのが特徴です。基本的には後手が用います。
糸谷哲郎八段vs藤井聡太六段(当時)の対局でも指されるなど、プロ棋士の中にも採用する棋士がいます。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△3二金▲2五歩△3三角▲3三角成△同金▲6八玉△2二飛(下図)
これが阪田流向かい飛車の基本の形です。悪形とされることの多い金が上ずった形ですが、この金はあくまで攻めにつかっていきます。
陣形を整えた後、△2四歩▲同歩△同金といった感じで逆棒金の抑え込みが成功すれば阪田流向かい飛車側良しでしょう。
おすすめマイナー戦法②:メリケン向かい飛車
2回続けて向かい飛車ですが、こちらは阪田流向かい飛車とはまた違った特徴のある戦法です。
▲7六歩△3四歩▲7五歩△4二玉▲6六歩△8四歩▲6八銀△8五歩▲7七角△3二玉▲6七銀△6二銀▲8八飛(下図)
石田流の出だしと思いきや、7筋に飛車は振らずに1筋ずれた向かい飛車の位置に飛車を振ります。これだけでは何が狙いか分からないと思うので、もう少し手を進めてみましょう。
△3三角▲7八金△5二金▲8六歩△同歩▲同飛(下図)
7八にいる金のおかげで振り飛車側の陣地に飛車の打ち込みの隙が無いのに対して、居飛車側は飛車うちの隙が多め。というわけで、飛車交換はできずに△8五歩と歩を打つことになりますが…。
△8五歩▲8八飛△6三歩▲7六銀(下図)
こうなれば先手の仕掛けが成功した形です。7筋の位を取ったことで、銀が7六に進出可能になり、次は8筋の歩を取ることができます。
居飛車側にもいろいろな対抗策があるので、このような感じに毎回上手くいくわけではありませんが、この8筋逆襲がメリケン向かい飛車の最大の狙いです。
おすすめマイナー戦法③:高田流左玉
高田流左玉は、相振り飛車で用いられる戦型です。右玉じゃなくて?と思うかもしれませんが、相振り飛車で使われるのは左玉。
下段飛車+厚みで戦うという基本は変わりません。
▲7六歩△3四歩▲6六歩△3三角▲6八銀△2二飛▲5六歩△4二銀▲6七銀△4四歩▲4八銀△6二玉▲5七銀△4三銀▲6五歩(下図)
6七と5七に銀を並べた形を作り、6五歩と位を取ります。この6筋の位が大切になってきます。
△7二玉▲6六角△6二金▲8八飛△5二金▲7七桂△2四歩▲5八金△2五歩▲3八金(下図)
後手が飛車先を伸ばしてくるのに対しては、▲3八金と金を右側に寄せてカバー。
△2六歩▲同歩△同飛▲2七歩△2四飛▲6八玉△8二銀▲8九飛(下図)
玉を左に動かし、下段飛車の形を完成させれば高田流左玉は完成で、これが基本形となります。角交換している場合も同じような感じですね。
玉はそれほど固くないので指しこなすのはかなりの力が必要です。
先手からの攻めは銀桂を使っての8筋攻めや、端攻め程度。主に相手の攻めのカウンターを狙っていく戦法です。
おすすめマイナー戦法④:嬉野流
嬉野流は、引き角と斜め棒銀による攻めを狙いとする居飛車の戦法です(振り飛車バージョンもあります)。アマチュア強豪の嬉野宏明氏が開発した戦法ですが、その一番の特徴は何と言っても初手の▲6八銀でしょう。
▲6八銀△3四歩▲5六歩△8四歩▲5七銀△8六歩▲7八金△4八銀▲7九角(下図)
ここからは右銀も活用して二枚銀の形にし、斜め棒銀+引き角による速攻を目指していきます。
振り飛車に対しては、鳥刺し戦法と同じような感じになります。
▲6八銀△3四歩▲5六歩△4四歩▲5七銀△3二飛▲2六歩△4二銀▲2五歩△3三角▲6八玉△4三銀▲7八玉△6二玉▲7九角(下図)
引き角は保留して通常の急戦で戦うこともできますし、案外柔軟な戦法かもしれません。
居飛車に対しても振り飛車に対しても玉があまり固くないので、勝ち切るのは難しいですが、攻めが決まった時の爽快感は半端ないです。
おすすめマイナー戦法⑤:袖飛車
羽生さんも棋聖戦で採用しました。定跡も未整備で、かなり力戦チックな戦いになると思います。
▲3六歩△3四歩▲3八飛(下図)
ここから横歩取りのような空中戦にするような戦い方もあれば、お互いが雁木に囲いあうような戦型になることもあります。
雁木での袖飛車はプロ棋士の採用例もいくつかあるので、これから一気にメジャーな戦法に踊れる可能性もあるかもしれません。
おすすめマイナー戦法⑥:地下鉄飛車
地下鉄飛車は振り飛車対策で居飛車側が使う戦法です。9八の香、7七の桂、6六の角、9九の飛車で端にすべての戦力を集めてからの端攻めを狙っていきます。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲6八玉△3二銀▲7八玉△6二玉▲5八金△7二玉▲5六歩△8二玉▲5七銀△9二香▲6六角△9一玉▲7七桂△8二銀▲3六歩△7一金▲3七桂△5一金▲8二銀△6二金▲6八金△7二金▲8九飛△3三角▲9八香△4三銀▲9九飛△5四銀▲9六歩(下図)
後手が無策に四間飛車穴熊に囲った局面ですが、こうなれば既に居飛車成功。この端攻めは受けきれないでしょう。
振り飛車が囲いとして用いることの多い美濃囲いと振り飛車穴熊はともに端攻めに弱く、上手く決まれば一気に勝勢にまで持っていけると思います。
あくまで後手が何も考えずに組んだ結果の局面なので、ここまで上手く組めることはないと思います。
地下鉄飛車の陣形が組み上がるまでの間に相手から仕掛けられることが多いので、自陣が潰れないように気を付けなければいけません。
おすすめマイナー戦法⑦:飯島流引き角戦法
飯島流引き角戦法は、プロ棋士の飯島栄治七段が開発した対振りでの持久戦策です。その名の通り、角道は開けずに「引き角」にして活用します。
▲2六歩△3四歩▲4八銀△4四歩▲2五歩△3三角▲7八銀△2二飛▲7九角△4二銀▲5六歩△4三銀▲5八金△6二玉(下図)
▲7八銀~▲7九角というルートで引き角の形を作ります。
▲5七角△7二銀▲6八玉△7一玉▲7九玉△5二金(下図)
引き角という共通点のある嬉野流は前で紹介していますが、この嬉野流との大きな違いは玉の固さです。
飯島流引き角戦法では、▲7八銀~▲7九角~▲5七角といった感じで角を移動して玉が美濃囲いに入城できるようにしています。美濃囲いさえ作ってしまえば、囲いは振り飛車と同等です。
その反面、5七に角がいるために5筋攻めに弱いのが欠点です。常にこの筋は警戒する必要があります。