突然ですが、将棋には8つのタイトル戦があります。序列順に、以下の通りです。
・竜王戦
・名人戦
・叡王戦
・王位戦
・王座戦
・棋王戦
・王将戦
・棋聖戦
封じ手というのは、普通の棋戦(対局)で登場するものではありません。一般的に、タイトル戦の、その中でも2日制のタイトル戦で必要になります。ですので、上の8つのタイトル戦のうち、封じ手が登場するのは
・竜王戦
・名人戦
・王位戦
・王将戦
の四つとなります。では、なぜ1日で終わる対局の場合は封じ手がいらないのに、2日制の場合は封じ手が必要になるのでしょうか。まずは、封じ手そのものとは何か、から見ていきましょう。
封じ手とは
封じ手とは、2日制の棋戦など、対局が一度中断される際に、あらかじめ次の一手を記入して封筒にしまっておくことを言います。手番を持っている側が、「封じます」と封じ手をすることを宣言し、次に自分が指したい一手を書き込みます。文字通り封筒に入れて封をするので、対局相手は次の一手をまだ見ることはできません。
2日制の対局の場合は、夕方になったら一度対局を中断して、翌朝再開します。ここで大切になってくるのが、持ち時間です。対局中断時には、当たり前ですが持ち時間のカウントも止まります。もし封じ手がなく、ただ単に対局を中断してしまうと、手番を持っている側は夜中いっぱい次の手を考えることが可能になってしまいます。これでは不公平。そこで取り入れられた解決策が、封じ手です。
封じ手をすることで、対局相手は次の一手をあてることができません。それと同時に、封じ手をする側も、自分の書いた手に対しての相手の応手をあてることはできなくなっています。
封じ手のタイミング
封じ手のタイミングは自由です。タイトル戦には一日目の終了時刻が定められていますが、必ずしもそれに合わせる必要はありません。考え続けたければいくらでも考えることができます。
封じ手に関するエピソードとして、面白いものがあります。藤井聡太五冠(2022年3月現在)の初めてのタイトルがかかった第61期王将戦。木村一基王位との対局です。
少し早めの封じ手を選んだ藤井棋士ですが、なかなか封じず、考え続けます。棋譜を見ていただければわかるのですが、人間の思いつかないような飛車切りという豪快な一手を閃き、後の指し手を読んでいるものと思われます。
藤井棋士はその後しばらくたって、封じ手の意思を告げました。問題となる次の一手を知っているのは本人のみ。答え合わせは翌日の朝となります。このドキドキ感も、封じ手の魅力の一つです。
封じ手と有利不利
封じ手というのは非常によく考えられたシステムではありますが、全くの公平性を保証しているかというとそういうわけでもありません。有利な封じ手と、不利な封じ手が存在し、封じ手のタイミングも戦略のうちです。
一般的に、この一手しかないような局面で封じるのは避けられるべきだといわれています。考えてみれば当たり前ですが、相手にまるまる一晩応手を考える権利を渡しているようなものです。
その代わりに、いくつか候補手があるような局面で封じるのはよい戦略といえるでしょう。相手は数通りの応手を考えなければなりません。
封じ手のタイミングや、有利不利の考え方は完全に棋士それぞれといってしまってもよいでしょう。「これ」と万人に当てはまるものは存在しません。
実際の封じ手を見てみよう
実際の封じ手の様子は、YouTubeなどでタイトル戦のスポンサーがカメラに収めていることがあります。下の動画は、何年か前の名人戦での出来事です。
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二日目の対局を始めるために、まずは両者が一日目の指し手を順に再現していきます。封じる直前の局面を再現したら、封じ手の出番です。封じ手を読み上げるのは、立会人(対局が円滑に行われるようにサポートする役目の人)の棋士です。封じ手は文字通り封筒にしまわれてあるので、ハサミで開ける際に少し戸惑っている様子が見られますが、最終的には立会人の深浦九段が「封じ手は○○です」と封じ手を明かし、封じた側がその手を指すまでが、一連の手順です。