定跡書を買ったはいいものの全然身についてないという方、多いと思います。そんな方は、将棋の定跡書の覚え方が間違っている、そんな可能性があります。特に定跡書を初めて読むというような将棋初心者の方の中には、定跡書の正しい読み進め方がわからない、という方も多いでしょう。また、いざ読み進めていっても、どうやって頭に入れていけばいいのか分からない、という方も多いはず。今回は、今すぐ実践することのできる、おすすめの定跡の覚え方を6つのステップに分けてを紹介していきます。
定跡を覚えるのは、序盤・中盤の力を強化するために絶対に必要です。序盤・中盤のコツや勉強法については、『序盤の指し方と考え方・戦法別の基本定跡や囲い方を徹底解説』や『中盤の指し方・考え方と勉強法を分かりやすく解説』で解説しているので、ぜひ併せてご覧ください。
定跡を覚えるためのステップ
1 勉強したい戦法を決める
定跡を覚えるための一番最初のステップは、勉強したい戦法を決めることです。どんな戦法を勉強したいのかが分からないと、定跡の覚えようがありません。定跡を覚える際のポイントは、数多くの戦法を覚えようとするのではなく、少ない数の戦法に絞って覚えていくこと。
そのための第一歩は、もちろん自分が居飛車を指したいのか振り飛車を指したいのかを決めることです。もしもまだ決まっていないという方がいたら、『【居飛車VS振り飛車】初心者におすすめなのは居飛車?振り飛車?』を参考に、まずはどちらを指したいのかを決めましょう。
そのうえで、もし居飛車を指したいのであればおすすめは棒銀戦法や右四間飛車戦法、振り飛車を指したいのであれば四間飛車または中飛車に絞って勉強していくのがおすすめ。
初心者におすすめの戦法は『将棋初心者向けのおすすめ戦法4選(居飛車・振り飛車別)』で、初心者向けの戦法の選び方は『将棋の戦法の選び方ー効率的に強くなるための戦法選びとは?ー』で紹介しているので、是非併せてご覧ください。
2 定跡書を買う
2番目のステップは、定跡書を買うことです。『主要な戦法・定跡一覧(解説付き・居飛車振り飛車別)』でも様々な戦法の定跡を紹介しているように、ネットの情報からでも定跡の知識を得ることはできますが、本格的に将棋の勉強をしたいのであればプロ棋士が書いた定跡書を読んでみるのをおすすめします。
自分に合った定跡書を選ぶ
定跡書を買っていくうえでは、もちろん自分が指す戦法についての定跡書を買うのも重要ですが、それと同様に重要なのが、自分の棋力に合った定跡書を選ぶということ。定跡書の中には有段者向けの非常に高度なものも混じっているので注意。
初心者向けのおすすめの定跡書(戦型別)については、『初心者におすすめの定跡書まとめ!居飛車・振り飛車別に紹介してみる』で紹介しています。
また、初心者の方の中で、何手も棋譜を頭の中で進めていくのが大変な人は、「次の一手方式」の定跡書を買うといいと思います。有名どころで言うと「○○を指しこなす本」シリーズや「ひとめの○○」シリーズなど。1手1手が問題形式になっているので、次の一手を考えながら読み進めていくことができるのがポイントです。
3 定跡書を読む
まずは範囲を決めてさらっと読む
大抵の定跡書は章がいくつかに分かれています。例えばこの「四間飛車破り(急戦編)」なら、第1章に4五歩早仕掛け、第2章に4六銀左急戦、第3章に棒銀について、といった感じ。
一気に全部の章を勉強するのは大変なので、まず学びたい章を決めます。そして、決めた範囲の部分をさらっと読んでいきます。ある程度の棋力があれば脳内で棋譜を進めていけると思うのですが、まだ始めたばかりの人などは脳内で棋譜を進めていくのが大変かもしれません。そうであれば、盤駒やソフトを使って並べても良いでしょう。
>>おすすめの将棋検討ソフトを徹底比較!市販ソフトとフリーソフトは何が違う?
定跡書の中には、変化が複雑で分かりずらいものもあります。そんな場合でも、この段階では戦型の大筋を掴めれば大丈夫です。どういった狙いで指し手を進めていくのか、どういった流れなのかということを大まかに確認していきます。
この段階で、自分に必要な定跡と要らない定跡を分けておく
定跡をたくさん勉強するのは良いことですが、自分の指す必要のないところまで知る必要はありません。そもそも、私たちはプロではありません。序盤勉強を効率化していくために、その戦型の中で自分にとって必要な定跡と必要でない定跡を分けていきます。定跡書にはたくさんの手順が載っているので、その中から取捨選択をしていくわけです。
自分から指し手の変化を選べる場合は、当然もっともよくなりやすい変化、または自分で最も指しやすいと思った変化を勉強します。定跡書では説明を分かりやすくするために、失敗例についての言及も多いです。もちろん失敗例のページも読んでいく必要があるわけですが、これから先に定跡を覚えていく際には、失敗例の部分は飛ばしてしまって構わないでしょう。
その一方で、相手から複数の変化の手順がある場合、それは覚える必要があります。相手から3通りの応手があるのであれば、それぞれに対する指し方はしっかりと覚えておきましょう(なので、自分からの指し手の変化を選ぶ場合は相手からの応手が限られているものを選ぶと勉強量が減ります)。
4 棋譜を並べつつ読み直す
自分にとって本当に必要な定跡が分かってきたら、その変化について棋譜を入力していきます(定跡書を読みながらで構いません)。ここではスマホアプリやパソコン向けのソフトがおすすめです。盤駒で実際に並べても構いませんが、ソフトでやる場合は手順を戻すのが簡単です。
スマホアプリの場合は「自由将棋盤」がおすすめ。機能が多いわけではありませんが、シンプルで、棋譜を並べるだけであれば十分です。
自由将棋盤
Kazuya Maeda無料posted withアプリーチ
パソコンの場合はこれから先のことのことも考えて、将棋ソフトを導入しておくのがおすすめです。将棋ソフトにはいろいろと種類がありますが、将棋初心者向けの初めての将棋ソフトとしては、マイナビの発売している「激指」がやはり一番おすすめ。初心者向けの将棋ソフトや、「激指」については、こちらの記事で説明しています。
>>愛用している将棋ソフト「激指」の機能と特徴、ダウンロード方法
スマホアプリやパソコンのソフトを利用して、一通りの変化を並べ終えたら、次は実際に自分で動かしつつ本で確認していきます。ここでは、流し読みをするのではなく、じっくり一手一手考えて見ていきます。定跡の一手一手には意味があるので、その意味について考えながら並べると定着が早いでしょう。
例えば次の一手を動かす前に、何も考えずに動かすのではなく、この手を指すと相手はどう動いてくるのか、何故この手が良いのかなどということを考えながら指していきます。この手順を何周かすると、だんだん定跡が自分のものになってくるはず。
5 ソフトを活用
一通り定跡の手順が頭に入ったら、ソフトで分岐点などを研究していきます。実際には4までのステップで十分なケースが多いですが、ソフト研究をしっかりやっておくと相手に序盤から差をつけられます。
特に、定跡書を読んでいると省かれている変化が多いのが事実。「ここでこう指して来たらどう対応するんだろう」といった場合は、将棋ソフトに聞いてみるのが一番です。将棋ソフトの選び方と基準などについては『おすすめの将棋検討ソフトを徹底比較!市販ソフトとフリーソフトは何が違う?』を参考にしてください。
少しでも気になった点は見ておく
定跡書を並べてみて、少しでも気になった変化はソフトで確認しておくことをおすすめします。なぜこの手が推奨されているのか、相手が別の手を指したらどうするのか、など一つ一つソフトで見ていきます。実戦では全ての相手が定跡書通りに指すわけではありませんからね。
わざと定跡を外して研究するのも手
一般的に悪いといわれている指し方でも、アマチュアの間ではその限りではありません。メジャーな戦型であっても、「相手が知らないけれども自分は知っている」であろう変化はたくさん作ることができます。
終盤の入り口まで研究しておくと勝ちやすい
将棋の勝敗は終盤の最後の最後まで分からないものではありますが、終盤の入り口くらいまで研究しているとなお良いです。例えば、居飛車対振り飛車の対抗系。捌きあってお互いが飛車を打ち合った局面だとします。ここで終盤の入り口くらいを研究しておけば、自玉/相手玉の安全度や肝となる一手が分かります。
6 実戦をしてみる
最後のステップは、実践です。これが最も重要です。といっても、対人戦では自分の学習した戦型が出てくるかは分かりませんので、最初はソフトを使って対局するのがおすすめです。
ソフトとの対局の仕方ですが、おすすめなのは仕掛けのすこし前くらいまで、とりあえず自力で並べていくことです。その直後の仕掛けの局面くらいから、ソフトと対局をしていきます。ソフトに思いもよらない変化をされたり、いざ実戦で指してみるとうまく戦えなかったりもあると思います。そういったときにはもう一度定跡書を読み直したり、定跡書に書かれていない場合はそのパターンの変化をソフト解析したりなど、その都度見直していきます。
両方を持って指してみる
ソフトと対局する際は必ず両方を持って指してみるよう心がけます。有名な「ひふみんアイ」と同じような感覚なのかもしれませんが、相手側をもって指してみることで分かるようになることも多いです。この「相手側をもって指す」やり方については、こちらの『【将棋ソフトを活用】短期集中特訓で苦手戦法をなくす勉強法』でも紹介しています。おすすめのソフト活用方法です。
対局後はしっかり検討
検討は絶対にしっかりやりましょう。その戦型の勉強のみならず、全体的な棋力の向上にも確実につながっていきます。先ほど紹介したマイナビ販売の将棋ソフト「激指」であれば、こんな感じにきれいに解析結果を表示してくれます(「好手」「悪手」などのアノテーション付き)。
激指について、詳しくは『愛用している将棋ソフト「激指」の機能と特徴、ダウンロード方法』で紹介しています。
実戦で使った分だけ定跡は覚えられるもの
将棋の定跡は英単語と同じです。英単語帳で学んだ単語よりも、実際に話したり書いたりした単語の方が覚えが良いように、将棋の定跡も実際の対局で使っていくうちにだんだんと覚えていくことができます。将棋の定跡は、決して丸暗記するものではないことにも注意。
定跡の覚え方のコツとは?
定跡の覚え方のステップをここまで6つに分けて紹介してきましたが、定跡をうまく頭の中に定着させるためのコツについてもまとめていきます。正しい定跡書を選んで、正しい方法で勉強したとしても、効果的に覚えていくためのコツであったり、定跡そのものに対する考え方を身に着けておかないと、定着はしません。
全体像を理解する
定跡を勉強する際には、その戦法が何を目標として指しているのか、何をしたい戦法なのか、というのを大まかでいいので理解しておきましょう。
例としては、例えば居飛車の棒銀戦法と、振り飛車の四間飛車戦法では、達成しようとしているものが全く異なります。棒銀を指すのと同じような方針で四間飛車を指していては、当然あまりいい戦いにはならないでしょう。
もちろん定跡を覚えておいて、その通りに指すので有れば問題ないのですが、実際の将棋では定跡から手順が外れたり、手順の前後があったり、微妙に陣形が違ったりということもあります。そんなときにも、定跡の全体像(その戦法の目標が何か)を理解しておけば、問題ありません。しかし、定跡の手順だけ暗記していて、その戦法の方針を理解していないと、見当はずれの手を指してしまうことになります。
指し手の意味を考える
もう一つの覚え方のコツは、やはり指し手をただ丸暗記するだけでなく、なぜこの指し手を選んでいるのかなど、指し手の裏に秘められた意味を理解することです。定跡はよくわからない符号の連続では決してなく、1手1手に意味のある手の集まりです。
指し手の意味を考えれば定跡を無理やり「暗記」しているという感覚にはならないでしょうし、また実戦でも指し手の意味を理解していることが重要になります。
例えば下図は四間飛車に対する4六銀左急戦の定跡の一部です。ここでは▲3八飛としたくなりますが、数手後に▲2四飛を可能にするために一度▲2四歩と突き捨てるのが定跡になっています。
こういった定跡を覚える際は「なぜ▲3八飛としてはダメなのか」「なぜ▲2四歩が必要なのか」を知っておくのが大切です。▲2四歩の意味さえしっておけば、相手の形が違っていたとしても、定跡で覚えた知識を応用して「手筋」として用いることができます。逆にただこの指し手を暗記していては、他の形での応用が全く利かなくなってしまいます。
まとめ
定跡書は、買っておわり!ではありません。定跡書をたくさん買うよりも、少ない数の定跡書を一冊一冊深くやり込む方が有効なのは、周知の事実です。初心者向けのおすすめの定跡書(戦型別)については、『初心者におすすめの定跡書まとめ!居飛車・振り飛車別に紹介してみる』で紹介しています。