横歩取りとは
横歩取りとは、相居飛車の四大戦型のひとつ。その文字通り、相手の横歩(3四の歩)を取ることによって戦いが始まる戦法です。横歩取りはアマチュア間でもプロ間でも人気の戦法で、定跡書もたくさん出ています。棋書についてはレベル別に『絶対に読むべき!横歩取りのおすすめ棋書をまとめてみた』で紹介しているので、ぜひご覧ください。
横歩取りの定跡
横歩取りの定跡はかなり整備が進んでいます。相居飛車の序盤で、お互いが飛車先を突き、角道を開けつつも、どちらも角交換をしない場合に横歩取りの変化になります。
▲7六歩△3四歩▲2六歩△8四歩(下図)
この出だしが横歩取りの基本です。ここから角を交換して、無理矢理角換わりにすることもできますが、プロの対局などでは殆どの場合横歩取りになります。これは自分から角交換をすることが手損になり、一手損する分だけ不利になってしまうのが理由です。
▲2五歩△8五歩▲7八金△3二金(下図)
飛車先を伸ばしてくる相手に対して、金を上がって角頭を支えるのは基本中の基本。ここでは早速先手から歩をぶつけていきます。
▲2四歩△同歩▲同飛(下図)
先手が歩交換を果たした局面です。ここで素直に△2三歩と打つ指し方もあり、その場合はゆっくりとした戦いとなります。しかしほとんどの場合は、相手にだけ歩交換を許すのは正直悔しいということで、後手も2筋を受けずに8筋の歩交換をしていきます。
△8六歩▲同歩△同飛▲3四飛(下図)
負けじと歩交換をしてきた後手に対して、先手も8筋にはかまわず3四歩と横歩を取っていきます。先手の飛車がこのように3四の「横歩」をかすめ取っていくことから、横歩取りという名前がついています(なお、ここでも歩を8七に打っておく指し方があり、その場合は落ち着いた戦いになります)。上図が横歩取りの基本図。ここから様々な作戦に分かれていきます
ちなみに、次の狙い筋は▲2二角成。△同金なら銀が、△同銀なら金が浮くのでタダで成り込むことができます。この筋があるため、後手からすると何かしら受けなければならず、角交換を防ぐ意味で3三角や3三桂とする指し方と、自分から8八角成としてしまう、大きく分けて3通りの指し方があります。
基本図では先手が3四の歩を取り歩得をしている一方で、飛車が使いずらい位置にいる(歩の上の飛車は扱いずらい)ため後手にも主張があります。飛車を働かせるためには数手かけて飛車を動かす必要があります。このことから、横歩取りは「先手の歩得 VS 後手の手得」の戦いといえるでしょう。
ポイント:飛車と角と桂馬が主役の戦法
以降の詳しい指し方についてはこれから紹介していきますが、横歩取りは角換わりや矢倉など他の相居飛車の戦法とは大きく戦い方が異なります。横歩取りの別名は「空中戦」。飛車角が中段(4段目~6段目)を激しく動き回るのが特徴です。さらに、銀ではなく桂馬が活躍するのも横歩取りならではの点でしょう。
ポイント:玉の囲いはバランス重視
横歩取りにおいての玉の囲い方も少し変わった点があります。横歩取りは序盤から激しい戦いが続くため、手数をかけて玉を囲う暇はありません。よって多少薄くてもバランスの良い囲いというのが好まれます。例えば下図の中住まいのような形。
中住まいにもいくつかバリエーションがあるので、上図はそのうちの1つでしかありませんが、このような左右に広い形が好まれます。また飛車の打ち込みに強いというのもポイント。横歩取りでは飛車角を豪快にぶった切っていくような場面もたびたび出てきます。そんなときはただ玉が堅い囲いよりも、バランス重視で自陣に隙の無い囲いの方が役に立つでしょう。中住まいの組み方については、詳しくは『中住まいの基本の組み方の手順と指し回しのコツ』で解説しています。
▲3四飛に△8八角成(横歩取り超急戦)
▲3四飛に対して△2二角成は、タダでさえ激しい横歩取りの中でも最も激しい戦いとなる手順です。まとめて横歩取り超急戦とも呼ばれることがあります。
基本的には先手が良くなる変化が多いですが、ハメ手も多く一度のミスが命取りになります。アマチュアでは指してくる人も多いので、基本的な変化だけは覚えておきたいところです。
4五角戦法
4五角戦法は、横歩取りの超急戦の中でも最も代表的な戦法です。角交換をしてから4五角と打ち、飛車取りと6七角成を同時に狙っていきます。
△8八角成▲同銀△2八歩▲同銀△4五角(下図)
上図では、△2八歩▲同銀と一度手を入れています。詳しい理由についてはここでは省きますが、2八に飛車を引かれないようにするためと思ってもらえれば構いません。△4五角は飛車取りと共に△6七角成(▲同金△8八飛成の筋)を見た作戦です。これに対して飛車を2八に引かれて、飛車の横利きでこの筋を受けられると少し厳しいのが理由です。
▲2四飛△2三歩▲7七角(下図)
これも定跡化された手順。△4五角に対しては、一度▲2四飛として▲2一飛成を見せます。▲2一飛成を防ぐために、後手も△2三歩と一度受けますが、これに飛車を引くようでは△6七角成から先手陣は壊滅です(2八に銀があるせいで、ここで2八飛と引くことができません)。ここでは▲7七角と打って、飛車取りと▲1一角成を見せて切り返します。
△8八飛成▲同角△2四歩▲1一角成(下図)
決戦の開始です。ただで飛車を取られるよりは銀との交換の方が得なので、一度△8八飛成としてから△2四歩と先手の飛車を取ります。後手もただの駒損ではまずいので、▲1一角成として局面は銀香交換で先手が駒損。とはいえ馬の利きが自陣まで届いており、次は桂馬を取れる状態。まだまだ互角の局面です。
ここからは△8七銀といった強硬手段もあれば、△3三桂とおとなしく桂馬を逃げていく(かつ角道を止めている)手もあります。どちらにしても難しい戦いとなりますが、どちらかというと先手指せるというのが一般的な見解です。横歩取り4五角戦法の詳しい定跡については、『4五角戦法の基本定跡と指し方』で解説しています。
相横歩取り
相横歩取りはただ横歩を相手から取られるだけでは悔しいので、後手からも先手の横歩を取ってしまおうという指し方です。下図のように、△8八角成▲同銀としてから、△7六飛とします。
△8八角成▲同銀△7六飛(下図)
角を交換さえしてしまえば先程の筋はなくなるので、後手も横歩を取ることができます。この局面は次に▲7八飛成があるので先手は何かしら受けなければいけませんが、今回は最も一般的な▲7七銀の変化を見ていきます(▲7七桂や▲7七歩とする指し方もありますが、▲7七銀が一般的です)。
▲7七銀△7四飛▲同飛△同歩▲4六角(下図)
飛車交換に応じてから、先手は4六角と打ち、9一角成を狙います。代えて△5五角は十字飛車の筋が生まれてしまいます。これに対して、後手は8二角と角を打ちあわせることで受けてきます。
△8二角▲同角成△同銀▲5五角△8五飛(下図)
8二角に対してはそのまま同角とします。この時、銀が8二におびき出されているので、角のラインがさらに厳しくなっているのがポイント。ここでは5五角と打ち、予想されていた十字飛車には飛車を合わせて応戦します。
▲8六飛△同飛▲同銀△2八歩▲8二角成(下図)
以下後手もと金を使って攻めてきますが、やはり先手が指しやすいというのが定説です。詰みまで研究が進んでいるような変化なので、興味のある人は指してみるのも面白いのではないでしょうか。相横歩取りの定跡については、『相横歩取り戦法の基本定跡と指し方』で詳しく解説しています。
▲3四飛に△3三桂(横歩取り3三桂型)
横歩取り△3三桂戦法はおそらくこの中では一番マイナーだと思います。指す人が少ないため定跡整備も他と比べるとあまり進んでいません。
△3三桂戦法は、飛車を旋回してひねり飛車の形にするのが狙い。玉は左に囲い、美濃囲いが主流です。しかもこの戦法の場合は相手も同じように飛車を回ってくる場合が多いので実質的には相振り飛車と似たような戦いになります。好き嫌いが分かれる指し方ですが、マイナーなだけあって極めれば勝ち数を相当奪えるはずです。
▲3四飛に△3三角(横歩取り3三角型)
△3三角戦法は、横歩取りの戦法の中で一番主流の指し方です。プロアマ問わず人気で、研究も細かいところまで進んでいます。
ノーマルな指し方
△3三角▲3六飛(下図)
角交換の筋を受けたことによって、後手は次に横歩を取ることが可能となりました。それを防ぐ意味で、3六に飛車を引くのは自然な一手です。
△8四飛▲2六飛△2二銀▲8七歩△5二玉▲5八玉(下図)
比較的ゆっくりとした戦いになりやすい指し方だと思います。
青野流
青野流は飛車を3四に留めたまま▲3六歩~▲3七桂を急ぎ、桂馬による速攻を目指す指し方です。アマチュア間でも比較的人気。
△3三角▲5八玉(下図)
ここから先手は桂馬を活用して攻めていきます。下図のような形が青野流の成功例です。
△2二銀▲3六歩△5二玉▲3七桂△7二金▲4五桂(下図)
勇気流
勇気流も青野流と考え方はほとんど同じ。二枚の桂馬を目指して速攻を狙っていきます。
青野流との違いは玉の位置。金にヒモをつけている反面戦場に近づいているという面もあり、一長一短。比較的新しい指し方でもあります。
△8五飛車戦法
最後に、少し特殊な△3三角戦法の指し方について紹介します。どちらかというとノーマルな指し方で紹介した部分の派生となるのですが、後手が8四に飛車を引くのではなく8五に飛車を引くという指し方があります。
囲いも中住まいではなく、中原囲いというまた少し違った囲いを使うのも特徴。中原囲いは下図のような形で、玉が最下段にいるのが特徴。中住まいほどの広さはありませんが、短手数で完成し、中住まいよりも横からの攻めに強くなっています。
中原囲いの組み方や指し回しについては、『中原囲いの基本の組み方の手順と指し回しのコツ』で解説しています。
最後に
横歩取りは、覚えることが多かったり嵌め手が多かったりと敬遠されやすい戦法ではありますが、おそらくどの戦法よりも指していて面白い戦法だと思います。飛車角がここまで動き回る戦法はそうありません。横歩取り関連の棋書も非常に多く、詳しくは『絶対に読むべき!横歩取りのおすすめ棋書をまとめてみた』で戦法別に紹介しています。
これらの中でも特におすすめなのは、長岡裕也五段による「ひと目の横歩取り」という一冊。
横歩取りの基本的な戦い方を網羅しているうえに、次の一手形式ということで反復練習がしやすく、初心者から有段者まで幅広い棋力帯の方におすすめです。
プロ間でも人気の横歩取りは、指せるようになるとプロの将棋をもっと楽しく見ることができます。横歩取りは避けようと思えば避けられる戦法なので指さないと決めている方も多いと思いますが、乱戦好きの方、攻め好きの方に限らず、全ての居飛車党におすすめの戦法です。